誘導抗力の設定方法

Original text written by Gregory Pierson
Translated and edited by Daikie

イントロダクション

航空機に作用する力の中に誘導抗力という、翼が揚力を生み出すときに同時に発生する抗力があります。誘導抗力は誘導抗力係数 CDi を用いてあらわされます。翼の迎え角(AoA) が大きいほど揚力は大きくなり、同時に誘導抗力も大きくなります。つまり AoA が大きいほど CDi が大きくなります。CDi の効果を体感できるのは低速飛行時や失速の直前、それから急旋回時などです。われわれ戦闘機パイロットに必要なのは、急旋回時の速度損失と誘導抵抗の関連についてですので、今回は低速飛行に与える誘導抵抗の影響については触れません。仮に主翼が誘導抵抗をまったく発生しないとしたら、たとえ急旋回に入ったとしても速度損失が起きません。ところが現実の世界では誘導抵抗により速度が失われますので、われわれ戦闘機パイロットにとって CDi が及ぼす影響は命にかかわる問題なのです。

これまで私が飛行特性のモデリングを行う際には、上昇率を調整するために CDi パラメータを利用していました。しかしながら、この方法では無意味に大きな値を設定しなくてはならないことがあり、その副作用として速度損失が過剰に大きな飛行特性となってしまって飛行不可能になってしまうこともありました。

現在ではセクション511や512といったパラメータが判明しているため、上昇率のチューニングはこちらの項目で可能となっています。セクション1204は本来の姿である最大誘導抗力係数 CDi Max を設定するのに使用しましょう。では、CDi Max の算出方法と設定法について解説していきます。

CDi Maxに関連する物理量

解説に先立って、CDi Max の計算に使用する物理量の解説をしておきます。

A アスペクト比=翼長の2乗÷翼面積
CL 揚力係数。AoA の関数としてセクション404で定義されている。
CL Max 揚力係数の最大値。
u テーパー翼に適応される有効アスペクト比補正係数。
pi 円周率 π=3.14。

以上の変数と定数より誘導抗力係数CDiは

CDi=CL^2/(pi*A*u)

さらに、マイクロソフトフライトシミュレーターシリーズでは定数50000を乗じて

CDi=CL^2/(pi*A*u)*50000

となります。なぜ定数50000が必要なのかはよくわかりません。uを求めるにはまずテーパー比を求めます。

テーパー比=翼端弦長/付け根弦長

求まったテーパー比とアスペクト比から、下図グラフよりuを求めます。


<クリックすると拡大できます>

以下の例は CFS 標準機の設定値です。なお、FS98/CFS では CDi Max値は上記のような計算式からではなく、セクション1204 Main Wing Inv. Pi Aspect Ratio の項目で独立して設定されています。

  翼面積 翼長 アスペクト比 CL Max
設定値
Cdi Max
理論値
Cdi Max
設定値
Fw-190 197 414 6.04 1.20 3794 5759
P-38 328 624 8.24 1.41 3839 3897
Bf-110 413 641 6.91 1.47 4979 5059
Hurricane 257 480 6.23 1.41 5083 5179
P-47D 300 480 5.33 1.33 5248 6856
Bf-109G 174 391 6.10 1.47 5638 5212
Spitfire 242 442 5.61 1.42 5693 5724
Bf-109E 174 388 6.01 1.47 5725 5212
P-51D 236 448 5.91 1.50 6065 4330

注目すべきは Fw-190 の CDi Max が CL Max の設定に対して不釣合いに大きいことです。Fw-190 はここに紹介した機体の中で最も低い CL Max 設定値となっていますから、低速では旋回率が低くなります。さらに標準設定の CDi 値は、先ほど紹介した式から導かれる理論的な値よりも高くなっており、速度損失が非常に大きくなっています。私は CFS 標準 Fw-190 の飛行特性を見て、なぜドイツ軍がこの機体を好んで使ったのか理解できずにいましたが、CDi Max の値を理論値に変更してみたところ特性は見違えるほどになりました。"Butcherbird (モズ)"とはよく言ったものです。

理論値を見ると P-38 の CDi 値が Fw-190 に近いですが、これは高アスペクト比の主翼のおかげで誘導抵抗が小さくなっているためで、Fw-190の場合には、CL Max が小さいために誘導抵抗が小さくなっているのと対照的です。誘導抵抗を減少させる方法として、アスペクト比を大きくとる手法と、揚力係数を小さくする手法の比較の参考になるでしょう。

もうひとつ、P-51D を見てみますと、この機体は最も大きな CDi 設定であると同時に、最も大きなCL Max 設定となっていて、高揚力、高抗力という設定になっています。私の意見としては、P-51D の CL Max 設定値は1.25、CDi Max にして4212程度と見積もっています。さらにこれが P-51H になると、CL Max が1.1、CDi Max にして3565程度になると見積もっています。実際のD型とH型を比べるとD型はH型に比べて旋回半径が小さく、速度損失はH型の方が小さいと思われるからです。

CDi Max の設定方法

では、CDi Max の具体的な設定方法を紹介します。設定に先立って、翼面積、翼長といった機体形状に関するパラメータが正確に設定されていることを確認してください。これらが正確でないとうまくいきません。

まずセクション404の AoA 校正曲線を変更し失速速度を設定します。残念ながらセクション404については不明な点が残っていますし、本来なら翼の形状によってそれぞれ異なるであろう失速角度を直接設定する項目もありません。そんなわけでセクション404の設定を行う場合には揚力係数の項のみを変更するようにしてください。不用意に AoA の項を変更してしまうと操縦不能となってしまうことも考えられます。

CFS 用 *.airファイルの場合セクション404には17項あり、CL Max は CL項のうちの最大値で、多くの場合10項目です。なお FS98 からコンバートした機体では47項ある場合がありますのでご注意ください。

まず水平飛行時の失速速度を確認してください。速すぎるようであれば CL Max を大きく、逆に遅すぎるようであれば小さくしてください。0.1づつ増減させていくとよいでしょう。このとき、CL Max の値がその他の CL の項よりも常に大きくなっているようにしてください。そうしないと飛行特性がおかしくなってしまいます。失速速度がうまく設定できたら、その他の CL項の値も同じ割合で増減させてください。これで元の AoA 校正曲線と相似形で、絶対値の異なる揚力曲線を定義することができました。Jerry のエディターをお持ちのようでしたら、エクセルを使うと便利でしょう。

これで正しい失速速度を持つ *.air ファイルができました。続いてアスペクト比を計算しましょう。必要な数値は1204に設定されています。単位をフィートに変換することをお忘れなく。先ほど変更した CL Max の値を前述の方程式に代入して CDi Max の値を算出してください。あとはセクション1204 Main Wing Inv. Pi Aspect Ratio 項に入力すれば終わりです。

誘導抗力の設定方法
翻訳第1版 1999/11/28

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