第2章 プロペラに関するセクション

Section 510 Propeller Parameters

このセクションにはプロペラに関するパラメータが定義されています。いずれもわかりやすい名前がついていますから特別説明することはいたしません。

パラメータ名 説明
Prop Diameter プロペラ直径
Max Prop Pitch プロペラピッチ最大角
Min Prop Pitch プロペラピッチ最小角
Min Governed RPM 速調機最低回転数
Engine/Prop Gear Ratio ギア比


Constant Speed Props

2次大戦で活躍した戦闘機のエンジンはある回転数において最も高い効率を発揮します。このため、プロペラ駆動系はエンジンが最も高い効率となる回転数を常時保てるように設計されていました。

プロペラは減速ギアを介してエンジンに接続されており、プロペラの回転数はエンジンのそれよりも低い、やはり一定の回転数で運転されるようになっています。プロペラブレードにはプロペラピッチと呼ばれる角度でひねりがつけられています。2次大戦で活躍した戦闘機は飛行中にこのプロペラピッチを変更できる仕組みが備えられていて、このようなプロペラ駆動系を可変ピッチプロペラまたは定速プロペラと呼びます。"可変ピッチプロペラ" という名称のほうが説明的ではあるのですが、定速プロペラと呼ばれるのが一般的です。

プロペラの効率は速度とプロペラピッチによって決まります。ある速度においてあるプロペラピッチを取ったときに最も効率が高くなります。CFS は定速プロペラをモデリングしており、通常はプロペラピッチを自動コントロールするようになっています。ちょうど、オートマ車を運転するような感覚です。マニュアル車のように"シフトギア"を操作したい方向けには、マニュアル操作によるプロペラピッチのコントロールも可能となっていますが、自動車の場合と違って、自動コントロールのほうがフルに性能を引き出すことができます、戦闘中はなおさらです。

Propellers and forward thrust

プロペラは翼と同じ断面形状をしており、主翼が揚力を生み出すのと同じ原理で推力を生み出します。プロペラブレードを流れる大気はプロペラブレードを挟んで圧力の差を生じ、これにより推力が発生します。よって推力はプロペラの回転数、直径、プロペラピッチ、速度の関数となります。

プロペラの周囲には回転によって生じる空気の流れと、機体が前進することによって生じる空気の流れが発生しています。プロペラピッチと空気の流れのなす角は迎え角と呼ばれており、機体が進行していないとき、迎え角はプロペラピッチと同じになります。機体の速度が変化すると、プロペラブレードの周囲を流れる空気の流れの方向が変わります。エンジンの回転数とプロペラピッチが一定であるならば、速度の変化と同時にプロペラの迎え角も変化します。プロペラ効率は迎え角の関数です。ですから、プロペラピッチを変化させることによって、つねに最も効率が高くなる迎え角を維持する必要があります。実際の動作としては、速度が速くなるにつれてプロペラピッチを大きくしていき、最も効率のよい迎え角を保ちます。

プロペラを回転させるにも力が必要となります。この力はプロペラの回転動作によって吸収されてしまします。プロペラによって吸収されてしまう力と発生する推力もまた、プロペラの回転数、直径、プロペラピッチおよび速度の関数です。プロペラの直径、ピッチ、回転数および速度が判明していれ発生する推力が計算できます。プロペラを回転させるために必要な力も同様です。しかしながら、計算式は相当に複雑になりますので、通常はルックアップテーブルを作成して計算します。CFS でも同様の手法を用いています。

簡単化のための1番目のステップとしてルックアップテーブルに使用する変数の数を減らします。具体的には、プロペラ直径、回転数、機体の速度から算出することのできる "advance ratio" という物理量を求め、中間的な変数とします。advance ratio は以下の式より算出されます。

Section 511 Propeller Efficiency

下図は CFS 標準 P-51D のセクション 511 に設定されているデータをグラフ化したものです。それぞれの曲線はプロペラピッチをパラメータとしたものらしく、X軸は advance ratio であるように思われます。さらにY軸のスケール、曲線の形状、飛行特性に与える影響を考え合わせると、この校正曲線はプロペラ効率の校正曲線であるように思われます。


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Engine Power

エンジンが一定の回転数を保っており、吸気圧も一定であるとすると、出力もまた一定になります。2次大戦の戦闘機には過給器が装備されており、海面高度から上昇限界高度まで吸気圧が一定になるように設計されていました。CFS 標準の機体はどれも、海面高度から上昇限界高度までほぼ一定の出力を維持します。上昇限界高度の一例は以下の通りです。

P51d 24000
P47d 27000
Fw190a 17000
Hurricane 10000

Section 512 Propeller Horsepower Coefficient

セクション 512 にも校正曲線らしきものが定義されているのですが、一般的な教科書に紹介されている校正曲線のどれとも一致しません。実際にこのセクションの数値を変更し、馬力とプロペラピッチとの関連を調べた結果から、プロペラピッチをパラメータとした出力馬力のルックアップテーブルになっていることがわかりました。どうやらこのセクションは、あるエンジン出力と速度における最適なプロペラピッチを選択するために使用されているようです。

ここで、プロペラへ伝達される馬力の校正曲線がどのような形状になるかを考えてみましょう。小さなプロペラピッチにおいては空気の抵抗が少なくてすむため、必要な出力は小さくてすみます。逆にピッチが大きい場合には空気抵抗が大きくなるためより大きな出力が必要となります。プロペラは出力の一部を消費しますが、機体が減速している場合には逆にエンジンに出力を返すように働きます。プロペラを風車(風力発電機といったほうがよいでしょうか)と思っていただければわかりやすいかと思います。校正曲線に負の値が含まれているのはそのためであると思われます。

下図はCFS標準P-51Dのセクション512です。Advance ratio をX軸にとって、プロペラピッチをパラメータとしてプロットされています。


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Section 511と512に関する実験

セクション511と512がこれまで述べてきたようにプロペラの効率、出力に関するものであるのか、またこの2つのセクションで使用されているパラメータがプロペラピッチと advance ratio であるかどうかの確認実験を行いました。

校正曲線がプロペラピッチの関数であることを確認するため、セクションの数値をすべて同じ値に書き換えてみました。その上で、マニュアルコントロールでピッチを変化させて飛行し、プロペラピッチが変化した場合の最高到達速度について調査しました。これまで述べてきたお話が正しいとすれば、セクション511と512の校正曲線を一定値としてしまうとピッチが変化しても最高速度は変化しないはずです。非常に原始的な方法ですが、校正曲線がプロペラピッチにのみ関連していることわかるはずです。

実際には、セクション511に変更を加えて、最高到達速度についての考察を行った段階で、このセクションがプロペラ効率に関連している手ごたえをつかんだので、特別に細かなデータを収集することはしませんでしたが、セクション511の値と最高到達速度は密接な関係にあります。セクション511の値が0となっている点では推力がまったく発生せず、0.1では加速、最高到達速度ともに非常に低くなります。0.9になると、通常よりも加速、最高到達速度ともに高くなります。1.0よりも大きな値も使用可能で、この場合単純な掛け算となります。

続いて、図に示されたX軸が advance ratio であることを確認するため以下のような実験を行いました。セクション511において advance ratio が1以上となる点の値をすべて0に設定しました。これによって advance ratio が1を越えるある速度以上で推力が発生しなくなるはずです。機体がこの速度に到達した瞬間に推力が0となり、機体はこれ以上加速しなくなります。水平飛行時の最高速度はおおよそ advance ratio が1になる速度になるはずです。

ここで、advance ratio に関する式を速度に関して展開すると、ある advance ratio における速度は以下のようになります。

実際に CFS 標準機体で測定したデータは以下の通りです。すべて高度約1000フィートにおける結果です。

  プロペラ
直径
RPM ギア比 ADV 1.0
速度
理論値
ADV1.1
速度
理論値
ADV 1.2
速度
理論値
計測された速度
P51d 11.16 3000 2 190 209 228 208
P47d 13 2700 2 199 219 239 229
Hurricane 10.75 3000 1.484 246 271 296 279
Fw190 10.833 2700 1.85 179 197 216 201

上記の結果は必ずしも先ほどの計算式と一致しません。これはグラフ上において advance ratio が1.0と1.2の点の間では自動的に数値が保管されるため、推力が完全に0とならないためであると思われます。これにより計算から導かれる速度よりも高速になっています。ためしに advance ratio を1.1として計算してみると誤差はより小さくなり、1.2とした場合にはすべての場合で計算値よりも小さくなります。

セクション512に関する確認実験

このセクションがプロペラピッチとプロペラ効率に関する校正曲線であることを確認するため、advance ratio が0から2.4の範囲で曲線が一定となるようにデータを変更しました。これによって速度によらず、あるプロペラピッチにおけるプロペラ効率は一定となります。さらに同じピッチ角においては効率が常に等しく、ピッチ角が20度から60度まで増加するにつれ、一定の割合で効率が変化するような校正曲線を設定してみました。詳しくは以下の表をご覧ください。

 

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

2.2

2.4

15

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

0.05

20

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

0.1

25

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

0.125

30

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

0.15

35

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

0.175

40

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

0.2

45

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

0.225

50

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

0.25

55

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

0.275

60

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

0.3

65

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

この表のように設定値を変更後、data recorder gaugeを使用して調査したのが以下のデータです。

speed

alt

prop

hp

thrst

329

801

22

1101

555

379

803

27

1382

638

363

801

32

1602

982

384

802

37

1895

1340

432

804

43

2159

1596

Advance ratioによらず効率が変化しないような設定にしてあるため、スピードは無視できます。ただし、スロットルの変化に対して、加速/減速する時間が十分にある場合には、馬力に影響を与えるようになります。上記の結果から求まったプロペラ効率は以下のとおりです。

pitch

coefficient

22

0.11

27

0.135

32

0.17

37

0.195

43

0.215

2つの表よりプロペラピッチ、効率、馬力の対応は以下のようになります。馬力がセクション512の設定から求まる効率と比例関係にあることが明白です。これより、馬力を求まる式は以下のようであると思われます。

出力馬力=効率×10000

ただし、10000という係数は今回の調査で使用したairファイルのみで有効です。この数値はギア比、プロペラ直径といったパラメータに依存することが考えられます。

Propeller Thrust Calculation Summary

ここで CFS における推力の算出方法をまとめておきます。CFS ではまず、エンジン出力とadvance ratio を計算します。その後セクション512に設定されているルックアップテーブルを参照してプロペラピッチを選択します。得られたプロペラピッチと advance ratio をパラメータとして、セクション511に設定されたルックアップテーブルを参照して効率を決定します。求まった効率から推力が計算され、最終的に機体の空気抵抗と均衡されて加速能力と最高速度が決定されます。以上のアルゴリズムをまとめると以下のようになります。

  1. エンジンに関するパラメータより、エンジン出力を計算
  2. 速度、プロペラ直径、ギア比から advance ratio を計算
  3. セクション512で相当する advance ratio 参照位置を決定
  4. エンジン出力がパワー効率と一致する点をセクション512からピックアップ
  5. ピックアップした点の数値がプロペラピッチとなる
  6. 選択したプロペラピッチと advance ratio をもとにセクション511を参照しプロペラ効率の係数を決定する
  7. プロペラの出力馬力とプロペラ効率から推力を算出する

Other observations

CFS ではセクション511と512の設定がその他セクションの設定値と整合が取れない場合、に自動的に補正を行うため、設定によっては無効な設定値となることがあります。

たとえばセクション512をすべて0.1に設定してしまうと、advance ratio から求まるプロペラへの入力とエンジンの出力の整合が取れなくなってしまいます。このような状態が発生した場合、CFS ではエンジンの最大回転数の設定を無視し、最大回転数以上の回転数で動作します。これににより advance ratio が増大し、結果として最高速度が増大します。あわせてセクション511に設定されている効率の値が高めに設定されていると、エンジン出力を変更していなくても、時に非常識に高速な最高速度となることがあります。"Super mod"作成には有益な情報かと思います。

実際のところ、セクション511に設定されているプロペラ効率は1よりも大きくすることができるわけで。これによって、「投入されたパワーを増幅してしまう」プロペラを再現することになります。

Section 514 Hydraulic Power

このセクションには降着装置やフラップを動作させるための油圧装置の性能に関する設定が収められています。エンジンの回転数の関数となっていて、設定値を小さくすると降着装置やフラップの動作速度、動作範囲などが小さくなります。このセクションは直接飛行特性に影響しませんが、戦闘でダメージを受けた時の油圧系への影響をモデリングするために存在しているものと思われます。

AIR FILE - Engine Parameters Sections
翻訳第1版 1999/11/24

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