第2章 プロペラに関するセクションSection 510 Propeller Parametersこのセクションにはプロペラに関するパラメータが定義されています。いずれもわかりやすい名前がついていますから特別説明することはいたしません。
|
P51d | 24000 |
P47d | 27000 |
Fw190a | 17000 |
Hurricane | 10000 |
セクション 512 にも校正曲線らしきものが定義されているのですが、一般的な教科書に紹介されている校正曲線のどれとも一致しません。実際にこのセクションの数値を変更し、馬力とプロペラピッチとの関連を調べた結果から、プロペラピッチをパラメータとした出力馬力のルックアップテーブルになっていることがわかりました。どうやらこのセクションは、あるエンジン出力と速度における最適なプロペラピッチを選択するために使用されているようです。
ここで、プロペラへ伝達される馬力の校正曲線がどのような形状になるかを考えてみましょう。小さなプロペラピッチにおいては空気の抵抗が少なくてすむため、必要な出力は小さくてすみます。逆にピッチが大きい場合には空気抵抗が大きくなるためより大きな出力が必要となります。プロペラは出力の一部を消費しますが、機体が減速している場合には逆にエンジンに出力を返すように働きます。プロペラを風車(風力発電機といったほうがよいでしょうか)と思っていただければわかりやすいかと思います。校正曲線に負の値が含まれているのはそのためであると思われます。
下図はCFS標準P-51Dのセクション512です。Advance ratio をX軸にとって、プロペラピッチをパラメータとしてプロットされています。
セクション511と512がこれまで述べてきたようにプロペラの効率、出力に関するものであるのか、またこの2つのセクションで使用されているパラメータがプロペラピッチと advance ratio であるかどうかの確認実験を行いました。
校正曲線がプロペラピッチの関数であることを確認するため、セクションの数値をすべて同じ値に書き換えてみました。その上で、マニュアルコントロールでピッチを変化させて飛行し、プロペラピッチが変化した場合の最高到達速度について調査しました。これまで述べてきたお話が正しいとすれば、セクション511と512の校正曲線を一定値としてしまうとピッチが変化しても最高速度は変化しないはずです。非常に原始的な方法ですが、校正曲線がプロペラピッチにのみ関連していることわかるはずです。
実際には、セクション511に変更を加えて、最高到達速度についての考察を行った段階で、このセクションがプロペラ効率に関連している手ごたえをつかんだので、特別に細かなデータを収集することはしませんでしたが、セクション511の値と最高到達速度は密接な関係にあります。セクション511の値が0となっている点では推力がまったく発生せず、0.1では加速、最高到達速度ともに非常に低くなります。0.9になると、通常よりも加速、最高到達速度ともに高くなります。1.0よりも大きな値も使用可能で、この場合単純な掛け算となります。
続いて、図に示されたX軸が advance ratio であることを確認するため以下のような実験を行いました。セクション511において advance ratio が1以上となる点の値をすべて0に設定しました。これによって advance ratio が1を越えるある速度以上で推力が発生しなくなるはずです。機体がこの速度に到達した瞬間に推力が0となり、機体はこれ以上加速しなくなります。水平飛行時の最高速度はおおよそ advance ratio が1になる速度になるはずです。
ここで、advance ratio に関する式を速度に関して展開すると、ある advance ratio における速度は以下のようになります。
実際に CFS 標準機体で測定したデータは以下の通りです。すべて高度約1000フィートにおける結果です。
プロペラ 直径 |
RPM | ギア比 | ADV
1.0 速度 理論値 |
ADV1.1 速度 理論値 |
ADV
1.2 速度 理論値 |
計測された速度 | |
P51d | 11.16 | 3000 | 2 | 190 | 209 | 228 | 208 |
P47d | 13 | 2700 | 2 | 199 | 219 | 239 | 229 |
Hurricane | 10.75 | 3000 | 1.484 | 246 | 271 | 296 | 279 |
Fw190 | 10.833 | 2700 | 1.85 | 179 | 197 | 216 | 201 |
上記の結果は必ずしも先ほどの計算式と一致しません。これはグラフ上において advance ratio が1.0と1.2の点の間では自動的に数値が保管されるため、推力が完全に0とならないためであると思われます。これにより計算から導かれる速度よりも高速になっています。ためしに advance ratio を1.1として計算してみると誤差はより小さくなり、1.2とした場合にはすべての場合で計算値よりも小さくなります。
このセクションがプロペラピッチとプロペラ効率に関する校正曲線であることを確認するため、advance ratio が0から2.4の範囲で曲線が一定となるようにデータを変更しました。これによって速度によらず、あるプロペラピッチにおけるプロペラ効率は一定となります。さらに同じピッチ角においては効率が常に等しく、ピッチ角が20度から60度まで増加するにつれ、一定の割合で効率が変化するような校正曲線を設定してみました。詳しくは以下の表をご覧ください。
|
0 |
0.2 |
0.4 |
0.6 |
0.8 |
1 |
1.2 |
1.4 |
1.6 |
1.8 |
2 |
2.2 |
2.4 |
15 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
20 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
25 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
0.125 |
30 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
35 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
0.175 |
40 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
0.2 |
45 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
0.225 |
50 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
55 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
0.275 |
60 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
65 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
この表のように設定値を変更後、data recorder gaugeを使用して調査したのが以下のデータです。
speed |
alt |
prop |
hp |
thrst |
329 |
801 |
22 |
1101 |
555 |
379 |
803 |
27 |
1382 |
638 |
363 |
801 |
32 |
1602 |
982 |
384 |
802 |
37 |
1895 |
1340 |
432 |
804 |
43 |
2159 |
1596 |
Advance ratioによらず効率が変化しないような設定にしてあるため、スピードは無視できます。ただし、スロットルの変化に対して、加速/減速する時間が十分にある場合には、馬力に影響を与えるようになります。上記の結果から求まったプロペラ効率は以下のとおりです。
pitch |
coefficient |
22 |
0.11 |
27 |
0.135 |
32 |
0.17 |
37 |
0.195 |
43 |
0.215 |
2つの表よりプロペラピッチ、効率、馬力の対応は以下のようになります。馬力がセクション512の設定から求まる効率と比例関係にあることが明白です。これより、馬力を求まる式は以下のようであると思われます。
出力馬力=効率×10000
ただし、10000という係数は今回の調査で使用したairファイルのみで有効です。この数値はギア比、プロペラ直径といったパラメータに依存することが考えられます。
ここで CFS における推力の算出方法をまとめておきます。CFS ではまず、エンジン出力とadvance ratio を計算します。その後セクション512に設定されているルックアップテーブルを参照してプロペラピッチを選択します。得られたプロペラピッチと advance ratio をパラメータとして、セクション511に設定されたルックアップテーブルを参照して効率を決定します。求まった効率から推力が計算され、最終的に機体の空気抵抗と均衡されて加速能力と最高速度が決定されます。以上のアルゴリズムをまとめると以下のようになります。
CFS ではセクション511と512の設定がその他セクションの設定値と整合が取れない場合、に自動的に補正を行うため、設定によっては無効な設定値となることがあります。
たとえばセクション512をすべて0.1に設定してしまうと、advance ratio から求まるプロペラへの入力とエンジンの出力の整合が取れなくなってしまいます。このような状態が発生した場合、CFS ではエンジンの最大回転数の設定を無視し、最大回転数以上の回転数で動作します。これににより advance ratio が増大し、結果として最高速度が増大します。あわせてセクション511に設定されている効率の値が高めに設定されていると、エンジン出力を変更していなくても、時に非常識に高速な最高速度となることがあります。"Super mod"作成には有益な情報かと思います。
実際のところ、セクション511に設定されているプロペラ効率は1よりも大きくすることができるわけで。これによって、「投入されたパワーを増幅してしまう」プロペラを再現することになります。
このセクションには降着装置やフラップを動作させるための油圧装置の性能に関する設定が収められています。エンジンの回転数の関数となっていて、設定値を小さくすると降着装置やフラップの動作速度、動作範囲などが小さくなります。このセクションは直接飛行特性に影響しませんが、戦闘でダメージを受けた時の油圧系への影響をモデリングするために存在しているものと思われます。
AIR FILE - Engine Parameters Sections
翻訳第1版 1999/11/24
ご意見、お問い合わせはこちらまで