第1章:地上での整備

この章では機体の物理的な寸法を編集します。不適切な設定がほんの少しあるだけで機体の特性を台無しにしてしまうので、できるだけ正確な値を用いてください。.air ファイルは関連する項目ごとにセクションに分けられていて、さらに複数のエントリーに分けられています。実際の .air ファイルの編集は、各エントリーに数値を入力していくことになります。この章で登場するエントリーの大半は、資料を元に1回設定すれば終わりですが、次の章では微調整のために実際に飛行してみて、数回手直しが必要となることもあります。また、いくつかのエントリーには一目でわかるエントリー名がつけられていますので、すべてのエントリーを解説することはしません。たとえば "Wheel Brakes(ブレーキ)" ですとか "Flaps(フラップ)" といったエントリーではブレーキの有無、フラップの有無を入力します。まずはすべてのエントリーをざっと眺めてみてください。.air ファイル内のエントリーが意味するところを理解するためには、機械工学について少々知っておく必要があるでしょう。工学を専攻されていない方にとっては、見慣れない単語が登場すると思いますが、あなたの専攻が何であれ、できるだけ簡単にフライトダイナミクスを解説していきます。多くの人が、ご自分が "工学" にうといと考えていらっしゃることと思いますが、そんなに難しいものではありませんので、どうかお付き合いください。

C. of G. :すべての中心点

.air ファイルのエントリーのうちいくつかは、機体を構成する各パーツの位置と寸法を記述するものです。.air ファイルにおいて、パーツの位置はすべて機体の Center of Gravity (CoG:重心)を原点とした相対的な3次元座標で記述されますので、一番最初に機体の重心を求めておく必要があります。重心(以下 CoG と略す)という言葉は一般的ですので、ほとんどの方にとって説明は不要かと思いますが、CoG は .air ファイルでとても大事なパラメーターですので、詳しい説明をしたいと思います。ちょっと思考実験をしてみましょう。

針の先に機体を乗せて、バランスをとることを想像してみてください。機体がどの方向にも傾かない点を見つけたら、針の先を延長した垂直線を描きます。図の赤い垂直線を見てください。CoG はこの線の上にあります。CoG を求めるにはさらに2回、機首と翼端についても同様の実験をする必要があります。実験のたびに、針の先から直線を描いて見てください。都合、3本の線が描くことになります。すると、3本の線はある1点で交わることがわかります。これが CoG です。もちろん実機体で実験を行うことはできませんが、CoG 予想する手助けになります。実際のところ、このような実験を行わずに CoG を求めるには、予想するか(これにはセンスが必要ですが…)、計算によって求めるかの2通りの方法あります。では、どうやって計算で求めるのでしょうか?精密な CoG の計算は、専門のエンジニアにとっても手間のかかる作業である上、詳細な機体データが必要になるのですが、概算方法を紹介します。

まず機体を構成パーツことに分割してください。これによって機体をまとめて取り扱うよりも、より等質なものとして扱うことができるようになります。たとえば、エンジン2台、機首(武装を含む)、および胴体(主翼、エレベーター etc.)といった具合に分割してみてください。次に分割したパーツの重量を調べるか予想します。Me262 B-2 であれば…

胴体(主翼、エレベーター etc.)= struc = 2,068 キログラム

機首(武装を含む)= nose = 520 キログラム

エンジン2台= eng = 2,074 キログラム

空虚重量= ew = 2,068 キログラム + 520 キログラム + 2,047 キログラム = 4,662 キログラム(10,279ポンド)

続いて、各パーツに全長方向の中心点(注:重心ではありません)を書きこみましょう。上の図を見てください。3つある赤い点が各パーツの中心点です。これでほとんどの準備は整いました。もとの機体の図面に戻り、尾翼端を基準点として、各中心点への距離を測定てください。式にしたがって尾翼端からの CoG の位置 long(CoG) を計算できます。

long(CoG) = (long(struc) * struc + long(nose) * nose + long(eng) * eng) / ew

ここで long(struc) は胴体と尾翼端間の中間点、struc は胴体の重量、 long(nose) は nose と尾翼端間の中間点…といった具合です。パーツをもっと細かく分割したのであれば、それに対応して式を拡張してください。

横方向と垂直方向の CoG が残っていますが、普通、航空機は横方向に対称ですので、全幅方向の CoG についての計算は必要ありません。対称軸(機体の中心線)上にあります。また垂直方向の CoG も計算しません。垂直方向については、全長方向、全幅方向に比べて距離が小さいので、まったくの予想で求めたとしてもさほど大きな誤差が生じません。これで CoG が求まりました。図面に CoG に書きこんで、.air ファイルに位置を入力しましょう。以降、文章の中で距離に関する記述が登場した場合には、ここでもとめた CoG からの相対的な距離を示します。

機体データ入力

では Flight Dynamic Editor (以下 FED と略す)を起動して、.air ファイルを開きましょう。File | Open をクリックして、編集する機体を選び、[Open] ボタンをクリックします。.air ファイルはセクション番号によって区切られています。各セクションにはさらに1つまたは複数のエントリーから成り立っています。左側のウインドウでエントリーを選択すると、右側のウインドウにセクションナンバーが表示されるようになっています。以下、セクションを追って説明していきます。お断りしたとおり、すべてのセクションの説明をするわけではありませんのであしからず。

セクション3、Aircraft Description 欄にはゲーム中に表示される、機体の説明文を入力します。

次のセクション4、Aircraft Specifications 欄には、機体の仕様を入力します。FS98 のディフォルト機体である 737-400 の例であれば、以下のような説明文が入力されています。

Wignspan(翼幅):94 フィート 9 インチ(28.88 メートル)

Max. Take-off Weight(最大離陸重量):138,500 ポンド(62,830 キログラム)

Engines(発動機):CFM 56-3C-1 ターボファン 静止出力 23,500 ポンド(104.5 キロニュートン)

Normal Cruise(巡航速度):高度 30,000〜35,00 フィートでマッハ 0.74

Range(航続距離):2,700 海里(5,000 キロメートル)

Stall Speed, Clean(失速速度):172 KIAS(318.5 キロメートル/時)

この欄にはあなたが必要と思われる機体データを書いておくことができます。この2つのエントリーの内容は、ゲーム中の機体のフライトダイナミクスにまったく影響を与えません。

主要な寸法の入力

主翼:

セクション 1024、Main Wingセクションの各エントリーに以下の数値を入力してください。

Main Wing Area 主翼の面積。単位は平方フィート。
Main Wing Span 翼幅。単位はインチ。
Main Wing Chord 翼弦。単位はインチ。
このエントリーには翼弦の平均値を入力してください。翼弦=面積÷翼幅×144で計算できます。
Main Wing Dihedral 上反角。単位は度。
上反角を求めるには下図を参照してください。基準は水平面です。上反角が大きいほど、機体はロールに対して安定になります。運動する物体(たとえば衛星)の軌道は、軌道をほんの少しだけ変えるような外力が加えられた状態で安定し、物体は再びもとの軌道に戻ろうとします。航空機がロールに対して安定であるということは、特別な外力(エルロンによる外力など)が加わらない限り、機体は通常の姿勢(コックピットが上)に戻ろうとすることを意味します。ただし、機体が安定であればあるほど、背面飛行での安定性は失われます。Extra300 のような機体であれば、ロールに対して安定化しすぎることは避けたほうがいいでしょう。

Main Wing Efficiency 主翼の揚力発生効率。
この値が大きいほど、主翼は大きな揚力を生み出します。FS98/CFS の標準機体の中で、性能のよく似た機体を参考にしてこの値を決定するのがよいでしょう。後々、上昇率を調整するためにこのエントリーを使います。ゲーム中のモデルでは、このエントリーは主翼の断面を間接的に記述します。
主翼の上面の気流は、下面のそれよりも長い経路を通って主翼を通過します。そのため、主翼の上は下よりも気圧が低くなります。この気圧差に主翼の面積をかけたものが揚力です。実際には、気圧差は翼の全幅に渡って一定ではありませんので、単純な掛け算ではありませんが、基本的な考え方としてはこれで十分です。
Main Wing Angle of Incidence 主翼の後退角。単位は度。
胴体と主翼のなす角度です。編集中の機体の後退角についてのデータがないときには、標準機体の値を参考にしましょう。水平飛行中に揚力を得るためには、この数値は正の値でなくてはなりません。また、航空機は通常、巡航速度において機首が上向きでも下向きでもいけません。巡航飛行中に機首が上向きになるようであれば、この値を大きくし、逆に下向きになるようであれば小さくしてください。このエントリーは、後々最終的な微調整を行うときに変更することになるので、最初はそれほどこだわる必要はありません。
Main Wing Center of Lift Fore+/Aft- of C of G 主翼の揚力中心。単位はインチ。
このエントリーには主翼で発生する揚力の中心を入力します。揚力は主翼全体で生み出されるのですから、なぜこの値が必要なのか疑問に思うかもしれません。シミュレーション中で揚力発生の物理現象を完全にシミュレートしていては、リアルタイムでゲームを楽しむことは不可能です。そこで、本来ならば翼全体で生み出される揚力を、ある1つの点で代表するわけです。
揚力の発生点は翼の幾何学的形状と断面形状に依存します。胴体側から翼端までの1/3、主翼前縁より1/3の点を選ぶのがよいでしょう。下図を参照してください。図中のLが求める点です。

Winglet? このエントリーには、ウイングレットの有無を入力します。ウイングレットとは空力特性を改善するために主翼端についている小さな垂直翼で、乱気流の発生を押さえる効果があります。シミュレータ中の効果としては、ウイングレットを付加することで揚力が向上し、空気抵抗が減ります。

水平安定板および垂直安定板:

水平安定板(セクション1205)と垂直安定板(セクション1206)のエントリーは主翼セクションのエントリーとほぼ同じですので、詳しい説明は省略し、Horizontal Stabilizer Efficiency Factor について少しだけ説明をします。主翼の場合と同様に、このセクションの値を調整することで揚力を制御することができます。わたしは巡航時のトリムの効き具合を調整するのに使いました。エレベーターのトリムは巡航時において中立である必要があります。目安としてトリムが中立の状態で巡航中に、機体が機首上げ状態になるようであればこの値を増加させるとよいでしょう。

エンジン:

ここではエンジンに関するエントリーについて解説します。エンジンに関するエントリーは、複数のセクションにまたがっています。エンジンの性能を決定する要素について、ここで詳しく述べることはしません。興味のある方は書籍を参考にしてください。たいていはよく似たエンジンを搭載している機体の設定を流用するのがよいでしょう。

Engine Type
(セクション310)
エンジンの種類。
ピストンエンジンは0、ジェットエンジンは1、グライダーは2、ヘリコプターは3、CFS用のロケットの場合は4になります。
Number of Engines
(セクション311)
エンジンの数。
Me262 であれば2となります。
Engine Locations
(セクション1002)
エンジンの位置。単位はインチ。
このセクションには各エンジンについて

Engine X Position Right+/Left- C of G
Engine X Position Above+/Below- C of G
Engine X Position Fore+/Aft- C of G

の3つのエントリーがあり、CoG を基準点としたエンジンの位置を入力します。エンジン1つ毎に左右、上下、前後のエントリーが対応します。実際の機体ではエンジンは点ではありませんが、シミュレーター中では代表点で置き換えます。どの位置を代表点として使うかですが、シミュレーター中ではエンジンは前向きの力を生み出す点を代表点としています。ですから、プロペラ機であれば、プロペラの中心となりますし、ジェットエンジンであれば、排気ノズルと燃焼室の中間点に設定するとよいでしょう。下図を参考にしてみてください。

Propeller Type
(セクション330)
プロペラタイプの指定。
プロペラが固定ピッチプロペラであるか、定速プロペラであるかを指定します。
Jet Engine
(セクション600)
ジェットエンジンに関する指定。
油圧、油温、燃料消費率に関するエントリーです。ジェットエンジンに関する詳しい説明は省略します。興味があるようでしたら参考書をご覧ください。まずは、ほぼ同じ性能のエンジンを搭載した機体の値を流用することをお勧めします。

燃料タンク:

ここでは燃料タンクに関するセクションについてまとめておきます。エンジンの場合と同じく、複数のセクションにまたがっています。

Fuel Weight per Gallon
(セクション312)
燃料の1ガロンあたりの重さ。単位ポンド。
通常、ピストンエンジンの機体は6、ジェットエンジンの場合は6.6016です。
Fuel Tank Locations
(セクション1003)
燃料タンクの位置。単はインチ。
MSフライトシミュレーターでは、中央タンク、左右メインタンク、左右補助タンク、左右先端タンクの7種類が設定できます。

エントリー名

意味

Center Fuel Tank Position Right+/Left- CoG 中央タンクの左右位置。
Above+/Below- CoG 中央タンクの上下位置。
Fore+/Aft- CoG 中央タンクの前後位置。
Main Fuel Tank Position Right+/Left- CoG メインタンクの左右位置。ここには右メインタンクの位置を入力します。
Above+/Below- CoG メインタンクの上下位置。
Fore+/Aft- CoG メインタンクの前後位置。
Aux Fuel Tank Position Right+/Left- CoG 補助タンクの左右位置。ここには右メインタンクの位置を入力します。
Above+/Below- CoG 補助タンクの上下位置。
Fore+/Aft- CoG 補助タンクの前後位置。
Tip Fuel Tank Position Right+/Left- CoG 先端タンクの左右位置。ここには右メインタンクの位置を入力します。
Above+/Below- CoG 先端タンクの上下位置。
Fore+/Aft- CoG 先端タンクの前後位置。

すべて、CoG からの相対的な位置になります。単位はインチです。中央タンク、メインタンク、補助タンク、先端タンクについては、右側の位置を指定すれば、対を成す左側のタンクのが自動的に設定されます。左側のタンクは、右側のタンクの Right+/Left- エントリーの符号を入れ替えた位置になります。

FS98/CFS では CoG よりも左側にあるエンジンには左側のタンクから燃料が供給され、エンジンには右側の右側のタンクから燃料が供給されます。左側にしか燃料タンクがない場合でも、右エンジンは正常に動作します。複数のタンクがある場合には、主翼、外部、メインの順で消費されていきます。いくつかの機体では、供給順が別途設定されているようです。

現役のジェット旅客機では、普通前方にあるタンクの燃料から先に消費していきます。Me262 には機首に2つの外部タンクが設けられており、さらにコクピットの前方に1つと後方に1つ設置されています。実際のジェット旅客機のように、落下タンクと前方に設置されたタンクから燃料を消費するように設定すると、着陸の際にクラッシュしてしまいました。ディフォルトの消費順ですと、コックピット後方の燃料タンクが満タンの状態で着陸することになり、CoG が主脚の後ろに移動してしまったためです。この問題は、落下タンクを補助タンクに、コクピット前方のタンクを中央タンクに、コックピット後方のタンクをメインタンクに設定し設定し解決しました。これで、落下タンク、コックピット後方タンクの順に消費されるので、CoG は主脚の前方のままです。

Fuel Capacity
(セクション302)
燃料タンク容量。単位ガロン。
説明するまでもありませんが、燃料タンクの容量です。Fuel Tank Locations セクションの各エントリーそれぞれに容量を設定できます。

続き:離陸の準備