第2章:離陸の準備

ここまでの設定が終了すれば、シミュレーターの中へ機体を配置するところまではもう少しです。その前に、さらに2セクションに入力が必要です。さて、私は初めてフライトシミュレーターをプレイしたときに、機体が地面に接触したことをどのように検出しているのか疑問でした。機体モデルの輪郭を正確にシミュレートしているのであろうと考えてしまいそうですが、機体モデルは複雑な形状をしていますので、リアルタイムで輪郭と地面の接触を検出するのは不可能です。実際、シミュレーターではもっと簡単化されたモデルが用いられています。

機体形状:

セクション1005、 Scrape Points Position が機体と地面との接触範囲を設定しています。ここで設定された範囲が、続く Scrape Point Crash Factor エントリーで定義されている時間の間、地面に接触した場合に "墜落した" とみなされます。ブループリントを見ながら、機首、尾翼端よび右主翼端について、CoG からの距離を測り、対応するエントリーに入力してください。Crash Factor エントリーは通常、FS98であれば262144、CFSであれば393216です。

以前、私が Horten Go229 (Nurfluegel) をダウンロードしたときのことですが、この機体は飛行可能なのですが、最大出力でも 1mph で滑走するだけで離陸できませんでした。これは、機体が地上にいるときに Scrape Points Position で定義される接触範囲が地面の中に設定されてしまっていたためです。当然、フライトシミュレーターでは地面の中を動くことはできませんから、このようなおかしな振る舞いになってしまったわけです。

機体重量と最大速度:

このセクションでは、機体の乾燥重量と最大速度を設定します。この場合の乾燥重量とは、FS95/98 であれば、燃料0の状態、CFSであれば燃料と弾薬が0の状態を指します。乾燥重量は機体メーカーの発表している空虚重量のことではありません。シミュレーター中での機体重量は、乾燥重量に燃料の重量を加え、CFSの場合にはさらに弾薬の重量を加えたものが総重量となります。FS98用には乾燥重量のみが必要です。繰り返しますが、メーカーの発表している空虚重量ではありません。空虚重量は乗員、荷物、貨物、武器、オイルそして燃料すべてを搭載しない状態での重量です。FS98 では、空虚重量に最低限必要となる装備の分を加える必要があります。セクション1101、Main Dynamics の Zero Fuel Weight エントリーに乾燥重量を入力します。Me262 の場合、乾燥重量は 10,279 ポンドと算出しました。

ちょうどセクション1101 に最高速度のエントリーがありますので、ついでに入力しておきましょう。Vmo エントリーがそれです。単位はノットで入力してください。1 ノット= 1.1508 マイル/時=1.852 キロメートル/時です。ここでいう最大速度とは、機体がコントロールを失うことなく飛行できる最大の速度です。Vmo は速度超過時の警告と、ピッチ、ロールおよびヨーの慣性を決定します。また、Airspeed Indicator Base の値を0にしておいてください。この値をたとえば10にすると、速度計の表示が10ノットからになってしまいます。

速度に関連した最後のパラメーターは最大マッハ数です。Max Speed (Mach) エントリーに最大マッハ数を入力してください。ゲームにおいてこのエントリーはさほど重要ではありませんが、500マイル/時以上の速度を持つ機体をデザインする際に重要となるので解説しておきます。500 マイル/時を超えるような速度をもつ機体には限界マッハ数という特性があり、機体のデザインを決定しています。航空機が限界マッハ数を超えると、機体のデザインによってさまざまな問題が起こります。たとえばコントロールが失われ、パイロットはなにもできなくなります。さらに速度が上がると空中分解することもあります。Me262 の最大マッハ数は 0.85 つまり、音速の 85% です。

降着装置:

恐らく多くの皆さんが Dancing Betty 現象を目撃されたことでしょう。新しい機体をインストールし、フライトをはじめると、滑走路上で落下し、バウンドし、時にはクラッシュしてしまうことがあります。この現象は、フライトシミュレーターが機体をゲーム中に登場させるときの処理を考えれば理解できます。シミュレーターはまずセクション301、 CoG above Ground と Fuselage Angle セクションを読み出して機体の位置を決定します。この段階で降着装置が接地していない場合、機体は落下します。CoG above Ground セクションと Fuselage Angle の設定次第では、車輪が地面の下になってしまう可能性もあります、この場合であれば機体が登場した瞬間に跳ね上がります。

3面図をもとに、降着装置の全長方向、高さ方向、全幅方向の CoG からの距離を測ってください。単位はインチです。得られた値をセクション1004の Landing Gear セクションに入力します。全幅方向であれば Main Gear Position Right +/Left- C of G になります。このセクションには Main Gear に関するものとの Center Gear に関する6つのエントリーがあります。Main Gear は主翼の下についているもの、Center Gear は機首または尾部についているものと思っていただければ間違いありません。

次にセクション301、Fuselage セクションで、胴体の角度(Fuselage Angle:FA)を入力します。胴体の角度とは、着陸状態にあるときに胴体と地面のなす角度です。胴体の角度は次の式で計算できます。

FA=-atan((NGPV-MGPV)/(NGPL-MGPL))

atan の前の負記号に注意してください。FA は胴体の角度、NGPV は CoG からの前輪/後輪車輪の高さ、MGPV は CoG からの主脚の高さ、NGPL は CoG からの前輪/後輪車輪の全長方向の位置、MGPL は CoG からの主脚の全長方向の位置 です。式によってもとまる角度は、機体が地上にいるときのみ使用され、飛行中の機体姿勢には影響を及ぼしません。

続いて、セクション301、CoG above Ground エントリーを入力します。この値も計算によって求めます、式は

CoG Above Ground = -(LBG * tan(-FA) + HBG) * 1500

です。ここで HBG と LBG という2つの変数が登場します。この2つの変数は、機体が Tail Dragger であるかどうかで、意味合いが逆転します。下表を参照してください。

  Tail Draggerの場合 Tail Draggerでない場合
HBG CoG から見た前輪/後輪の高さ CoG から見た主脚の高さ
LBG CoG から見た前輪/後輪の全長方向の位置 CoG から見た主脚の全長方向の位置

FA は先ほども登場した胴体の角度です。CoG Above Ground を正しく設定すれば、機体はもうバウンドすることはありません。

さて、これで降着装置に関する情報は最後になります。セクション1004、Type エントリーに戻ってください。機体が引き込み式の降着装置を装備しているのでしたらこのエントリーに1を入力してください。FDE ではこの他にも、スキッド(2)、フロート(3)またはスキー(4)の設定ができます。また、その下の Gear 1 Cycle Time 〜 Gear 3 Cycle Time に引き込みにかかる時間を入力します。右側の車輪と左側の車輪の設定が同一になるようにしましょう。私はこの値を降着装置のランプがつくのと、引き込み音が終わるのが同時になるように設定しています。

続く Steerable? エントリーに前輪/後輪がステアリング可能かどうかを指定します。すべての機体がステアリング可能な車輪を装備しているわけではありません。Me262 はステアリングができませんので、エンジンとブレーキを使ってタキシングをしていました。

セクション1101 Main Dynamics にも降着装置に関する Braking Factor エントリーがありますので設定しておきましょう。このエントリーは降着装置のブレーキの効き具合を決定しています。ブレーキを強くしすぎるとブレーキをかけたときにクラッシュすることがあります。例として 737 は -25536、Learjet が -15536、Bf109G であれば 12000 となっています。(訳者注:小さい値ほどブレーキが強くなるようです)。Me262 のブレーキ性能は貧弱だったと伝えられていますので、私はこの値を 18211 に設定しました。

さて次はギアの耐久力と、吸収力の設定です。降着装置に関する設定はこれで最後です。各エントリーについての解説をする前に、ちょっと物理の勉強をしましょう。実際の航空機が着陸する際には、降着装置に "impact(撃力)" が加わります。FS98/CFS では "impact" の変わりに、重量に速度の2乗をかけた "impulse(力積)" という物理量を使用します。物理学による定義では、力積は物体にかかっている力と、その持続時間の掛け算です。さらに FS98/CFSでは力積をもっと単純化して、単に重量を用いているようです。ではこの "impulse" はどのように降着装置に加わるのでしょうか?使用されているモデルは簡単です。FS98/CFS ではそれぞれの降着装置について、minimum weight と maximum weight の2種類の重量と、crash factor の3変数を定義しています。もし、降着装置に加わる力が minimum weight より大く maximum weight よりも小さい場合、降着装置はスプリングとダンパー(緩衝器)として扱われ、つまり衝撃が徐々に吸収されていき、機体には下に沈むような振動が発生します。これが minimum weight より小さいか maximum weight よりも大きい場合には衝撃が吸収されず、機体は跳ね上がります。FS98/CFS では、この3つの変数を主脚と前輪/後輪それぞれに設定する必要があります。セクション1004、Landign Gear の6つのエントリーがそれです。

Main Gear Spring Loading Factor 上記の maximum weight に相当します。
Main Gear Damping Factor 上記の minimum weight に相当します。
Main Gear Crash Velocity 上記の crash factor に相当します。

とりあえず次のように設定してみてください。

  主脚 前輪/後輪
maximum weight 8 x minimum weight 7 x minimum weight
minimum weight 1/8 空虚重量 1/2 空虚重量
crash factor 500,000 500,000

maximum weight と minimum weight は非常に敏感です。私の場合は設定が適切であるかを確認するために、燃料搭載量を変えて離着陸を試してみました。燃料満タンの状態、次に 50% 、そして 5% の3通りです。Me262 の CoG は主脚に非常に近く、さらにメインタンクの片方が主脚の後ろにあることもあり、良い値を選ぶのに少々時間がかかりました。5% 搭載時には前輪にかかる重量が非常に小さくなってしまうため、離陸を開始したとたんにバウンドし始めました。前輪の minimum weight の値を空虚重量の1/4まで小さくしてやるとこの現象は直りました。離着陸の際に機体がバウンドするようなら、maximum weight ではなく minimum weight を小さくしてみてください。

これで離陸準備完了です。実際に機体を飛ばして反応を確かめてください。Me262 の場合、ここまでの設定だけでかなりリアルに飛んでくれました。後は飛行中の特性について微調整をするだけです。

続き:飛行特性