第3章:飛行特性ここからは前章とは非常に勝手が異なってきます。前章では、各エントリーを1回編集するだけですみましたが、この章では何度も編集しなおすことになると思います。また、この章では、機体の機械的・物理的(機体の慣性)な特性に関するエントリー、飛行特性(ピッチ、ヨー、ロール)に関するエントリー…といった具合に分類して説明します。ほとんどの設定は FS98/CFS 標準の機体と比較しながら決めていくことになります。 機体の慣性: 機体の慣性に関する設定はセクション1101、Main Dynamics と、セクション1001、Aerodynamics-Weight & Balance です。 慣性とは、ある軸を中心にした回転のしやすさです。たとえば、機体の垂直方向の慣性が大きいと、CoG を通って機体を横方向に貫く軸を中心とした回転に大きな力が必要となります。ここでまた物理の勉強をしておきましょう。重量 m の小さな球が、ある点 p を中心に回転している様子を思い浮かべてください。球と、回転の中心点の距離を d とすると、この系における慣性は md2 になります。距離に関しては2乗で比例するので、重量よりも中心点からの距離に対する依存性が高いことがわかります。航空機をこの球の例のように、単なる点として扱うのは乱暴ですが、回転軸から離れた部分にある質量ほど、慣性に与える影響が大きくなるわけです。 さて、FS98/CFS には、機体の運動を決定する5つの慣性が存在します。最初の2つ、Vertical inertia と Lateral inertia エントリーはセクション1101、Main Dynamics の中にあります。まずは Vertical inertia エントリーについて考察します。Me262 と P-51 を比べてみてください。もしも Me262 が機首にエンジンを搭載した単発プロペラ機であれば、P-51 の Vertical inertia エントリーの値を空虚重量で割って、Me262 の空虚重量をかければ M262 の慣性をもとめることができます。しかし、Me262 は機首ではなく、主翼下にエンジンを2機装備していますので、この計算方法は利用できません。先ほどの球の例を思い出してください。回転軸から離れたところにある質量ほど、大きな慣性を持つようになります。Me262 のエンジンは CoG に近い位置にありますので、P-51 の場合ほど大きな慣性を生じないと予想できまるわけです。一方で、Me262 のエンジンは機体の全重量のほぼ半分を占めるほどで、先ほどの球の例であれば、大きな m を持つことになります。よって、総合的に、Me262 は P-51 とほぼ同じ垂直方向の慣性を持っていると予想されますので、Vertical inertia エントリーは P-51 とおなじ -121 に設定しました。値が小さいほど慣性は大きくなります。なお、このエントリーの値は旋回率に影響を及ぼします。 次は Lateral Inertia エントリーです。このエントリーは 、機体が CoG を通って機体を垂直方向に貫く軸を中心にした回転運動、つまりヨーをしやすいかを決定しています。この場合ですと、エンジンは回転軸から遠い位置にありますので、慣性は大きくなります。今回は P-51 の Lateral Inertia エントリーの値を空虚重量で割って、Me262 の空虚重量をかけたものを使用します。やはり値が小さいほど慣性は大きくなります。 続いてセクション1001、Aerodynamics-Weight & Balance の設定に移りましょう。このセクションには慣性に関する設定が3つあり、動的な機体の特性を決定しています。Moment of inertia-roll、Moment of inertia-pitch、Moment of inertia-yaw の3つがそれです。l横方向と垂直方向の慣性は機体の重量と幾何学的なデザインにより決定されます。このセクションで設定されている3つの慣性はそれぞれ、ロール、ピッチ、ヨー特性に関するものです。機体の旋回率と、小さな力に対する感度にも影響します。もっと正確に言うならば、機体の引き起こし、首振り、横転させるのに必要な力を設定しています。この3つの値が小さいほど、操縦桿の動きに対して敏感に反応しますし、逆に大きいならば反応が遅くなります。文献によれば、Me262 は非常に敏感な機体だったということですので、P-51 の半分の値に設定しました。もしロール中に振動が起きるようでしたら、Moment of inertia-roll エントリーの値を大きくしてみてください。機体がちょうどよい感度をもつようにこの値を設定してください。 胴体の抗力: 抗力とは機体の運動を妨げようとする力のことです。空気抵抗といったほうが一般的にわかりやすいでしょうか。抗力は一般的に、係数 c と速度 v を用いて cv2 であらわされます。係数 c は機体のの幾何学形状と大きさによって決まります。FS98/CFS 中でこの c に相当するのがセクション1101、Main Dynamics の Drag Coefficient-Zero Lift エントリーです。Drag Coefficient-Zero Lift エントリーには機体規模の近い機体の値を流用するとよいでしょう。このエントリーの値により、いくつかの飛行特性を決定できます。たとえば機体の最高速度です。ただし、このエントリーの調整のみで最高速度を決定しようとすると非常に大きいか、小さな値にしなくてはなりません。もっとも重要なのが、着陸時の減速具合です。抗力が小さいと、アイドリング状態で、低速で水平飛行を行っていてもほとんど速度が失われません。パイロットの証言をもとにこのエントリーの値を決定しましょう。Me262 の場合であれば、機体の抗力が非常に小さかったという話が伝わっています。実際に Me262 を操縦したアメリカ人のパイロットによれば、永久に飛びつづける飛行機を操縦しているのかと思ったほど、エンジン出力がなくとも飛びつづけたそうです。そんなわけで、このエントリーは小さな値にしました。 降着装置の抗力と機首下げ効果: 降着装置をおろすと空気抗力が増加し、機首が下がります。この現象をシミュレートするためのエントリーがセクション1101、Main Dynamics の Drag Coefficient - Landing Gear エントリーと Gear Pitch Factor エントリーです。Drag Coefficient - Landing Gear エントリーついては、機体の規模がよく似た機体の値を流用しましょう。Gear Pitch Factor エントリーを正確に設定するためにはパイロットの証言が必要です。一般的に Gear Pitch Factor エントリーは 0.02 から 0.05 の間です。0.05 に設定すると非常に強い機首下げ効果があります。降着装置が大きく、長い場合には、このエントリーの値を大きくしてみてください。大きい値にするほど速度が落ちやすいので、着陸が簡単になります。 フラップ: フラップには機体の失速速度を低下させる働きがあります。主翼が延長されたものと考えればよいでしょう。フラップは同時に抗力を増大させ、着陸時の速度を低下させる効果があります。まず最初に、フラップの下げ角度の設定が必要です。Me262 は 0°、20°、40° 、60° の4つに設定できます。セクション315、Flaps Position エントリーにこの値を入力してください。角度を入力するのではなく、設定可能な位置の数を入力します。 次にセクション1101、Flaps Lift、Flaps Pitch Factor、Flaps Cycle Time、Drag Coefficient-Flaps の4つのエントリーを設定します。Flaps Lift はフラップ上げ状態での失速速度と、フラップ最大角度の状態での失速速度から計算することができます。
です。この公式は Tom Goodrick によるものです。Drag Coefficient-Flaps は通常 0.1 前後です。 Flaps Pitch Factor を決定するにはパイロットの証言が必要です。資料がないようでしたらよく似た機体の値を流用しましょう。手元の資料によればMe262 は着陸時に大きなトリム調整が必要だったとのことですので、 やや高めの値を設定しました。 Flaps Cycle Time はフラップを最大下げ位置に移動するためにかかる時間です。機体メーカーからの情報がないときには、小型の機体であれば4秒、大型の機体であれば7秒に設定するとよいでしょう。 スポイラー: スポイラーとは飛行中に使うブレーキです。機体によっては急降下時に速度がつきすぎ限界マッハ数を超えて、空中分解してしまうのを防ぐためスポイラーが装備されています。短距離での着陸が要求される機体にも装備されることがあります。スポイラーの実装方法は多種多様です。翼の下に装備している機体、翼の上に装備している機体、翼端に装備している機体、あるいは胴体に装備してる機体とさまざまです。FS/CFS でスポイラーの特性は3つのエントリーによって定義されています。まず、スポイラーを動作させたときの抗力の増加分がセクション1101、Main Dynamics の中の Drag Coefficient-Spoiler エントリーで定義されています。続く Spoiler Lift エントリーはスポイラーによる揚力の増加分です。Spoiler Pitch Factor はスポイラーが動作中に機首が下を向く力がかかるか、上を向く力がかかるかを決定します。正の値が下を向く力になります。この3つのエントリーについては、一般的な設定がありません。実際の機体を例にとってみると、主翼の上に装備されているスポイラーは抗力を増し、揚力を増加させ、機体に機首下げの力を及ぼします。これが主翼の下に装備されたスポイラーであれば、抗力が増し、揚力が減って、機首上げの力を及ぼします。AD-1 Skyraider のように胴体に装備されているものであれば、抗力を増加させるだけで、機体の姿勢に影響を及ぼすような力は発生しません。実際の世界では胴体に装備されているスポイラーは気流を乱し、ラダーとエレベーターの効き具合が変化します。最新の旅客機の場合には、抗力がフラップによる抗力よりもやや大きな値に設定するとよいでしょう。この種の機体は通常、主翼の上にスポイラーが装備されているので、Pitch Factor エントリーは正の値で、Spoiler Lift エントリーは小さな値を設定しましょう。(標準の 737-400 の Spoiler Lift の設定は大きすぎるようです。) 機体にスポイラーが装備されていない場合には、このエントリーを流用して別の機能をシミュレートできます。パイロットがコントロール可能で、抗力と機体姿勢に影響を及ぼすような機能に使えます。スポイラーエントリーは0から16kまでの値を取りますので、空力特性を精密に設定できます。たとえば、艦載機の着艦フックに利用できます。Dino Cattaneo 氏はこのエントリーを利用して F-14 の着艦フックをシミュレートしています。
上記の設定でを使うと、スポイラーを作動させた瞬間、機体の尾部がつかまれたかのような感覚を味わえます。さらに Spoiler Pitch Factor に正の値を設定すると機首が下がりますので、いっそうリアリティーが増すでしょう。 もうひとつの可能性として、回転翼機のスポイラーをうまく設定すると、VTOL機(垂直離着陸機)をシミュレートできます。英国空軍のハリアー GR はこの方法で作られています。ただ、この方法ですと、機体の重量を非常に軽くしなくてはならないので、全体としての特性のバランスをとるのがが難しいですが… さて、Me262 にはスポイラーがありません。その代わりに wing slats が装備されています。wing slats は低速で急旋回するときに展開され、気流が主翼から剥離するのを防ぎます。これにより、失速速度を低下させます。主翼が大きくなったことと等価の効果がある機構です。wing slats は揚力を増すとともにわずかながら抗力を増加させ、機首上げまたは下げの影響を及ぼします。機首の上げ下げは主翼の揚力中心に依存します。もしも CoG よりも後ろであれば機首は下がります、逆に前であれば機首は上がります。今回は以下のような値を設定しました。
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