*.air ファイルに関するチュートリアル
Original text written by Jerry Beckwith
Translated and edited by Daikie
第1章 プロペラと推力に関するセクション
定速プロペラの動作
CFSでは定速プロペラがモデル化されていて、エンジンの出力、プロペラピッチを、速度に応じてコンピューターが最適な回転数を維持してくれます。プロペラピッチは通常、自動制御されていますが、手動コントロールすることも可能です。 プロペラは翼と同じ断面形状を有しており、主翼が揚力を発生するのと同じ原理で推力を発生します。つまり、プロペラブレードを流れる空気は気圧の差を生じさせ、これが推力に変換されているわけです。発生する推力はプロペラの回転数、直径、ピッチおよび機体速度の関数です。 プロペラの周りには同時に2つの空気の流れが生じています。1つはプロペラが回転することにより発生する空気の流れと、機体が進行することにより生じる空気の流れです。プロペラブレードは、プロペラピッチと呼ばれる角度にねじって取り付けられていてるので、プロペラが回転しているとき、プロペラブレードと気流はある角度を持っています。この角度は
Angle of Atack (以下 AOA)
と呼ばれていて、機体が静止しているとき AOA
はプロペラピッチと同じになります。 定速プロペラは、機体の速度変化にともなって、プロペラブレードを流れる気流が最適になるように自動調整してくれます。エンジンの回転数とプロペラピッチが固定であった場合、気流の方向が変わり、それに伴って
AOA
が変化します。プロペラ効率はプロペラブレードの
AOA の関数です。最も効率のよい AOA
を維持するために、WWU中の航空機は、可変ピッチプロペラブレードを装備していました。機体の速度が上がるに連れてプロペラピッチを大きくし、最も効率のよい
AOA に自動調整していたわけです。 定速プロペラに関するセクション
プロペラにより生み出される推力を計算するには、プロペラの直径、ピッチ、回転数、機体の速度を知る必要があります。厳密には、プロペラを回すために必要な力はを考慮しなくてはなりませんが、ここでは無視することにします。厳密な解法としては、問題としているプロペラの推力効率表を参照して求めることになりますが、そのまま求めると複雑になってしまいますので、プロペラ径、回転数、機体の速度から
advance ratio という物理量を求めて代用ます。
advance ratio
が求まれば、プロペラピッチとあわせて推力効率を求めることができます。 *.air
ファイルではセクション511に512に定速プロペラに関するパラメータが設定されています。まずセクション511にプロペラピッチと
advance ratio
の関数として推力効率が定義されています。なお、セクション511
のフォーマットはこのチュートリアルの最後で説明します。 下図は
CFS 標準の P-51D のセクション511に定義されたデータです。縦軸が、推力効率、横軸が
advance ratio
です。グラフはプロペラピッチをパラメータとして描かれています。
<クリックすると大きなイメージになります>
advance
ratio
は無次元の数量で、以下の式により算出されます。 advance
ratio=プロペラ直径×エンジン回転数÷プロペラギア比×速度×88 プロペラ直径とギア比は以下のセクションで設定されています。
プロペラ直径
セクション510、オフセット 0x4、floating point
ギア比 セクション510、オフセット 0x34、floating point
さて、プロペラ自体を回転させるためにもパワーが必要となります。これも回転数、プロペラ直径、プロペラピッチ、そして機体速度の関数となっており、算出ができます。算出方法はプロペラ効率の算出の場合とよくにていて、やはり
advance ratio
とプロペラピッチをパラメータとしてパワー効率表から読み取ることになります。 *.air
ファイルではセクション512に、プロペラピッチと
advance ratio
の関数としてパワー効率が定義されています。なお、セクション512
のフォーマットはこのチュートリアルの最後で説明します。 下図は
CFS 標準の P-51D のセクション512に定義されたデータです。縦軸が、パワー効率、横軸が
advance ratio
です。グラフはプロペラピッチをパラメータとして描かれています。
<クリックすると大きなイメージになります>
セクション512の値をある値、たとえばすべて0.1以下、に変更すると
*.air
ファイル中に設定されているエンジンの最高回転数における、エンジン出力とパワー効率を正しく設定できなくなってしまうようです。このような場合自動的に、設定値よりも高い最高回転数が設定されてしまうようです。 検証実験
さて、ここまでのセクション511と522が推力効率、パワー効率を定義していることを確認するため、いくつかの実験をしてみました。ここでは、私の行った実験のうち2つを紹介します。今回の実験には
AirDump と AirUpdate
というプログラムを使用しました。これらのプログラムは
WinAirFileUtils.ZIP アーカイブにまとめられています。simCombat.com
ホームページの files vault
からダウンロードできますのでご利用ください。 推力効率とパワー効率がプロペラピッチの関数であることを確認するため、セクション511と512の数値をすべて一定に変更した上で、ゲーム中で手動でプロペラピッチ調整を行いながら到達可能な最高速度と、各ピッチ角度における最高速度を記録しました。セクション511と512を一定にしましたので、プロペラピッチが変化してもスピードの変化はおきなくなるはずです。 セクション511で、advance
ratio が 1.0 以上の範囲でプロペラ効率をすべて 0
に変更しました。これにより、advance ratio が 1.0
となる速度以上で、推力が発生しなくなり、速度が頭打ちになるはずです。つまり、水平巡航時の最高速度となります。実際に
CFS
標準機で実験を行った結果、次のようになりました。なお、高度約
1000 フィートで実験を行っています。
Fw190 1.0 = 209 mph
P51d 1.0 = 208 mph
P47d 1.0 = 229 mph
Hurricane 1.0 = 279 mph
この値は計算によって求まる advance ratio=1.0
となる速度と誤差1.0〜1.5%の範囲に入っています。セクション511が推力効率を定義していることは間違いないようです。
続き:第2章 エンジンに関するセクション |