Taildragger's Research Paper Part 1

Modeling of Mach drag in MS(C)FS.

イントロダクション

始めまして皆さん。私のリサーチを報告するにあたり、インターネット上で最も有益な MS(C)FS フォーラムの主催者であられる Pierson 氏に感謝の意を表したいと思います。 

さて、714th VFTS のフォーラムに投稿された過去の記事を読ませていただき、私自身 *.airファイルの理解が進み、これまで交わされた議論の中にいくつか間違った解釈がなされているもの見つけましたので、私なりにリサーチを行ってみました。すでに投稿されたご意見を否定する部分も含んでいますが、なにとぞご気分を害されないように願います。

今回取り上げる事例は非常に複雑で長文となりますので、いくつかに分割して投稿させていただきます。どういった題名をつけるのがふさわしいのかわかりませんので、私のニックネームである Taildragger から1字をとって TRP シリーズとさせていただきます。このリサーチの目的は検証を通して *.air ファイルについて深い考察を得ることです。私の得た結論に関して、可能であれば経験的な検証方法を明示いたしますし、そうでなくとも推論の根拠をできるだけ明確にしていくつもりです。

私のリサーチはトピックごとに分割してありますので、興味を引いたものからフォーラムでスレッドを立てていただき、意見交換をしていただければ幸いと存じます。残念ながらメールで個別に意見交換をさせていただいたりすることはできそうにありませんし、フォーラムへのフォローアップも頻繁にはできません。フォーラム内で私からのレスポンスが長い間なくとも、決して皆さんからの意見を無視しているわけではございませんのであしからず。フォーラムの中で意見交換がなされ、新事実が判明したようであれば必要な修正を行った上でこのリサーチを更新したいと思います。

まずは音速域に関連した事例から始めましょう。714th VFTS のフォーラムで話題になる機体が2次大戦機中心であるためか、音速域に関連した事項についてはまだまだ検証が不足しているように思います。

フォーマットを分析する

最初に音速域に関連したセクションの共通フォーマットについて少し説明しておきましょう。すでにフォーラムの中でも取り上げられていましたように、*.air ファイル中でマッハに関連するセクションはすべて同一のフォーマットをしています。各セクションには 17 のエントリーがあり、これを縦軸として、横軸は暗黙的かつ固定的に定義された 0 から 0.2 ずつ増加するマッハ数となっていて 1 つの校正曲線を構成しています。

AirED ではこれら音速域に関連したセクションは 410〜433 に渡っており、すべてのセクション共通で v0 (またはそれに相当する最初のエントリー) はマッハ 0.0、v1 はマッハ 0.2、v2はマッハ 0.4…といった具合に v16、マッハ 3.2 まで続きます。このように横軸はすでに定義済みですので、マイクロライト機であろうがロッキード SR-71 であろうが、すべての航空機で 0.2 刻みのなんとも大雑把なモデリングを使用することになります。

マッハに関連したセクションは 410〜433 以外にもありますが、これらはマッハ 0.2 刻みで固定された 1x17 の構成曲線ではなく、横軸が自由度を持った 2x17 のフォーマットとなっていてより柔軟なモデリングが可能です。たとえば後に述べるセクション 401 は横軸も自由に変更可能で、セクション 410 のように固定された横軸では表現できないような細かなモデリングが可能となっているようです。

さて、音速域に関連したセクションでもっとも重要なのが 430 です。セクション 430 には遷音速から超音速にかけて発生するさまざまな空気抵抗が「集約されて」定義されています。後に述べる造波抵抗ですとか体積抵抗ですとか、後退角による影響ですとか、そういった本来独立して定義されるべき量が「総和」として定義されているわけです。厳密な定義を好む方は嫌われるかもしれませんが、以降は単にマッハ抵抗と呼ぶことにいたします。

現実の世界では、マッハ抵抗は 2 つの要素から構成されます。造波抵抗 (以下 CdW ) と体積抵抗 (以下 CdV )です。残念な話ですが、マイクロソフトがこの 2 種類の空気抵抗を個別に設定している形跡は見られません。以前フォーラムに投稿された記事では「セクション 430 にはマッハ抵抗が定義されているようだけれども、単純な CdW と CdV の和ではない」との意見が出ていましたが、わたしはセクション 430 は「単純な CdW と CdV の和である」と考えています。

これまでにも、数名の方からマッハ数とそれに対応した抵抗係数のグラフや表についての意見が投稿されていましたが、適応することのできる条件が不適切で、誤った結論が述べられていたように思います。個人的な見解として、以前このフォーラムに投稿された記事にはいくつか間違いがあるように思います。そこでこれまでの定説のどこが間違っていたのか、私なりに証明していこうとおもいます。なお個別に投稿記事の参照先を記載することはしませんのであしからず。

形状抵抗とセクション 430 の関係

これまで定説とされている Pierson 氏の方法によれば、典型的な2次大戦機は v3 (マッハ0.6) で1 MDU ( MDU=マイクロソフトの定める抵抗係数)、v4 (マッハ0.8) で 50 MDU、v5 (マッハ1.0)で 200 MDU というものでした。中にはもっとおかしな提案もあり、それでも「権威をもって」受け入れられていたようです。

セクション 430 はマッハ抵抗係数の大きさと変化を記述するグラフでなくてはなりません。2次大戦機は2機を除いて後退角0度で、ごく普通の翼厚をした主翼を持っています。これらの機体に関してセクション 430 を比べてみると、ごく小さな差異しかありません。実際問題として、翼厚の影響を考えなければ、たとえ層流翼であったとしても、遷音速領域の抵抗係数はほとんど変化ありません。遷音速領域での抵抗係数は主翼の後退角と翼厚に大きく影響を受けるので、セクション 430 に設定されているような小さな値ではほとんど影響を及ぼしません。厳密には、Pierson 氏の提案したセクション 430 の設定は間違った解釈をしていると考えられるのですが、数値が小さい速度領域しか使用しないので、体感できる差異がなかったということです。

このような誤解を生んだ元凶(?)は、「セクション430に定義されている数値が CdW と CdVの和であって、しかも、セクション1101に定義されている Cd0 の値と同じ単位をもつ」ということです。すなわち、3者は実際の機体の空気抵抗値を元に、同じ方法で換算された量です。実際の機体の抵抗から MDU への換算はすでにフォーラムに投稿されています。

科学的な見地からは、マッハ抵抗はあいまいなところがあり、参考書を見てもなかなかグラフあるいは一覧表で定義されたものを見つけるの難しいようです。よく知られている航空力学の参考書を見ると CdW と CdV は個別のものとして扱われており、両者の和をグラフ化あるいは一覧表化されたものは見受けられません。そのためにセクション 430 のように、両者を統合して扱うと不明瞭になってしまったり誤解を生んだりしてしまうのです。

実際のゲーム中では、セクション 430 に設定された 17 のエントリー (直線で補完され16セグメントの校正曲線となっている) がセクション 1101 の Cd0 値に加算され、速度の2乗、翼幅、平均弦長、空気の密度といった要素が掛け合わされて、全形状抵抗が算出されています。このフォーラムで取り上げられる機体はたいていマッハ 0.6 以下で飛行するものばかりで、セクション 430 はほとんど影響を与えません。そのため、これまで問題が表面化しなかったのだと思います。

カテゴリー1に登録されている機体のうち、マッハ 0.6 以上の性能を持っているものは、セクション 430 の設定が不適切であるものがあるように思います。セクション 430 を大きく見積もりすぎているので、ある高度において所望の速度性能を実現するために、Cd0 を小さくしてそれを補わなくてはならなくなっているようです。

そのため、セクション 430 のエントリーの値が小さい範囲、すなわちマッハ 0.65 以下 (今考えている機体の飛行エンベロープのほぼすべての領域) において抵抗係数の総計が小さくなってしまい、巡航およびダイブ時の加速力が過剰になっているようです。結果的に、ゲーム中ではエネルギー状態に神経を使わなくてもよくなってしまい、史実では用いられなかったような戦術を取ってしまう原因になっていると考えます。

ここで皆さんは「もしもCd0が過小評価されているならば、上昇率や上昇限度が正確ではなくなるはずだ」と反論されるかもしれません。これはセクション430のみでは解決できない問題であるためだと私は考えています。これについては後々投稿する記事で、Cd0が過小評価されていると考える根拠を説明したいと思っています。ではここまで述べた点について、これから証明を行っていきましょう。

続き:セクション430についての提案と検証